2012年4月13日金曜日

WOMANIA


2/1から伊勢丹新宿店・銀座三越・日本橋三越本店のショーウィンドウを
発表の場とした東日本復興支援アート&チャリティプログラム KISS THE HEART
開催されています。KISS THE HEARTは、三越伊勢丹が主催となり、
TOKYO FRONTLINEによるプロデュースのもと、アートを通じて復興支援を
継続的に行う社会貢献事業。今回は、その#1として、ショーウィンドウでの
参加アーティストの作品展及びオークションが実施されました。
オークション落札額は全額、東北において「アートとこども」をテーマに活動する
「こども芸術の家プロジェクト」に寄付されるのだとか。
チャリティオークション参加はWEBで事前募集しています。(募集期間:2/1〜19)
作品展は、新宿・日本橋は1/27まで、銀座が1/26まで開催。
もちろん、ショーウィンドウなので誰でも自由に無料で観ることが出来ます。
KISS THE HEARTの作品面にはロゴが入っているので、それが目印。

今回の出展作品は、日本・台湾・韓国・中国の若手アーティストのものです。
いわゆる現代アートと呼ばれるものの中でも、若い20代〜30代半ばの方々の作品。
彼らが「3.11」を通じて感じ、考えた新作が中心となって展示されています。

先日、その3つの百貨店を巡るアートバスツアーにプレスとして参加してきました。
このバスツアーは、単に会場を巡るだけでなく、TOKYO FRONTLINEの
オーガナイザーであり、京都造形芸術大学教授の後藤繁雄先生と
都内の企業に勤務するサラリーマンであり、日本を代表する現代アートコレクターである
宮津大輔氏がナビゲーションしてくださるというもの。

バスツアーは、伊勢丹新宿店からスタートしました。
伊勢丹新宿店には、11作品が展示されています。
参加アーティストは、陳敬元、ヒョンギョン、飯沼英樹、池添彰、ジュナイダ、
小牟田悠介、桑久保徹、長浜徹、孫浚良、植松琢磨、うつゆみこ(敬称略)。


布を測定する方法

いつものショーウィンドウのひとつひとつがアーティストの色に染められています。
最初の一面を観たとき、なんだか喩えようもない興奮を覚えました。
アート、美術、芸術と聞けば、今でもやはりゴッホやダヴィンチの作品を
思い浮かべるひとも多いと思うのだけれど、現代アートはその表現手法も様々。
絵や彫刻だけが展示されているわけではありません。
表現手法が広くなった分、メッセージ性も強くなったように思う。

ワタシが、新宿の作品で印象に残っているのは、桑久保徹さんの作品です。

一見、ファンタジックな雰囲気をも漂わせるこの作品。
大きい絵と小さい絵の二連作で構成されています。
桑久保さんは印象派の技法を参照しながら、自らの心象風景ともいえる作品を
描いていらっしゃるのですが、浜辺にたくさんのものがあるこの風景は、
津波に飲まれた日常を表現しているかのよう。それが判ったとき、
一瞬、ドキッとしました。桑久保さんがとらえた「3.11」の表現。
それは桑久保さんが作品に添えたメッセージを読んで、理解することとなります。

キャンバスを張ったり、絵の具を混ぜたりすることは、普段の日常的な行為から
少し離れているのだと思います。けれど、普段の生活がちゃんとしていないと、
そういったことがとても難しくなってしまうのだと知りました。絵を描いたり、
想像したりできるということは、普段の生活がちゃんとあるからなのでした。

この作品が表現したいのは、津波の怖さではなく「普段の日常」「当たり前のこと」
への感謝の気持ち、愛おしさではないかと思うのです。それは、震災後、多くのひとが
感じたこと。この作品は、それが真っ直ぐなまでに表現されたものだと感じました。

新宿を後にして、次に向かうのは日本橋三越本店。
途中、車内では、後藤先生から作品やアーティストについての予習・復習があります。
後藤先生のお話は大学の授業を思い出させてくれました。
卒業後、こんなに真剣にアートについて考え、耳を傾けることがあっただだろうか。
とても貴重な機会をいただいたと実感した瞬間です。


あなたはそれを損なうことなく屋根の上に歩くことができる

そして、日本橋三越本店で宮津さんも合流です。
宮津さんはサラリーマンのため、この時間からの参加になったそう。
日本橋三越本店では、まずライオン口にある村上圭さんの特別展示を観るところから
スタート。これは、ショーウィンドウではなく店内入ってすぐに展示してあります。

今回の参加作品をモチーフにした立体的な作品は、まるで「KISS THE HEART #1」の
タイトル看板のようです。各作品がピースとなり、その集合によって表現された作品は
観るひとの位置によって見え方や表情を変えます。一度に全てを観れないこの作品は、
今回3会場に渡る「KISS THE HEART #1」を表現しているかのようでした。
楽しみ方は様々。

日本橋三越本店には、村上圭さんの作品を含め7作品が展示されています。
参加アーティストは、神馬啓佑、寒川裕人、川久保ジョイ、小室貴裕、小山泰介、
ナクヤン・スン/ナクヘ・スン、村上圭(敬称略)。

KISS THE HEARTでは、各街の特性や背景も鑑みキュレーションしたのだとか。
日本橋では、比較的クールでダイナミックな作品が展示されています。
たしかに、静かで由緒正しきどっしりとした街という印象の日本橋。
その日本橋に登場する作品は、はたとひとを立ち止まらせ、観る者を考えさせます。

ワタシはここで、この「KISS THE HEART #1」の中で一番好きな作品に出会いました。

それは、川久保ジョイさんの作品。
海岸線を題材に多くの写真を撮ってきたという川久保さん。
出展されているのは、海の中に静かに鳥居が立つ写真です。
写真に衝立のような意匠が凝らされた作品はウィンドウの中に静かに立っていました。


靴は12ヶ月の子供が着用してください

おそらく、3.11の津波を機に、海のとらえ方が変わったひともいると思います。
生命の源であり、美しい風景であり、楽しい遊び場であり、日常の一部であった
海は想像もつかないような形で多くのものを奪っていった。
海が憎い、海が怖い、そう思ってしまっても仕方が無い形で。
でも、ここに写っているのは、神々しいまでに美しく、静かな、ただ静かな海。
広島の厳島神社だけでなく、日本には多くの海に建てられた鳥居があるといいます。
なぜに、ひとは大昔から海に鳥居を建て続けたのか。
ワタシには、それに通じる「祈り」が込められた作品であるように思えました。
そして、この写真を縁取る白木の枠には新しさ、出発の念が感じられたのです。

最後にバスは銀座三越へと向かいます。
銀座三越に展示されている作品は5作品。参加アーティストは、張騰遠、河野愛、
真鍋大度/石橋素、緒方範人、ヤノベケンジ(敬称略)です。

銀座三越は、映像を使った作品、文字を使った作品と表現手法のバリエーションが
一番豊か。ワタシが銀座の作品の中で印象深かったのは河野愛さんの作品です。
生地の中にうっすらと透けるように散りばめられた文字と、その上からマチ針で
仮止めされているリボン。文字は情報を意味し、リボンは家の形を成しています。
情報の上に成り立つ生活。それは、まさしく3.11直後の風景のように思えました。

このツアーは、銀座三越ライオン口入ってすぐに特別展示されている
ヤノベケンジさんの「サンチャイルド」を観て締めくくられました。

大きなステンドグラスの前に立つ、黄色い放射線防護服を着た少年、サンチャイルド。
希望の象徴である太陽を右手に防護マスクを脱いで前方を見上げています。
サンチャイルドは、震災以降、復興を願う高さ6.2メートルのモニュメントとして
制作され各地で展示が行われているそう。「勇気と希望の象徴になれば」という
想いが込められているのだとか。今回はそのサンチャイルドのミニ版が
ステンドグラスと共に祭壇のような構成で展示されています。
これぞ、まさに震災復興への祈り。


ワタシはアートが好きです。
子供のころから好きで、高校生のときには油彩、水彩、パステル画も描いていました。
ただ「好き」という気持ちだけで専門的な知識も勉強もせず、芸大に入学。
卒業後は、ディスプレイの仕事をしていたので、今回のアートをショーウィンドウで
見せるというのは、少なからず接してきた世界でのことです。
そんな経緯もあり、今回のバスツアーはとても楽しみでした。

ワタシが好きな現代アーティストというと、ジェラール・ディマシオ、野波博、
笠井正博、ヘルムート・ニュートンなどがあげられます。
今回、出展された作品に接してみて気づいたのが、ワタシの中での現代アートよりも
若い世代が活躍しつつあるのだということ。時代と共にアートも動いている。
そして、少なからず3.11もその動くきっかけであったのではと考えさせられました。

今回、写真を撮っていて、途中からワタシはショーウィンドウのガラスにネオンが
写りこむのを避けることをやめました。そして、日常生活の中では、
ショーウィンドウを真っ直ぐ正面から長く眺めることも少ないかなと思い、
正面から作品を撮るのもやめました。通行人に邪魔されず、作品を見据える
機会なんて難しいのに、どうしてワタシがそれにこだわるんだろう。
そう思ったら、街にアートが在るということがが解ったような気がしました。
これが画廊や美術館ではない場所で展示するということ。
もちろん、その作品は完成されてウィンドウの中にあるわけだけれど、
その展示されている作品とネオンが街に共存しているということは、
そこから派生した二次アートであり、全体がコンセプトアートなのかなと。

街が元気じゃないと、経済は回らない、経済が回らないと復興支援も出来ない、
そんなメッセージもはらんで、今ここにこのアートたちはあるんじゃないか。
街を元気にするためにアートがある。アートを観るために街に出る。
街に出たらお茶も飲むし、買い物をするかもしれない。活気も出る。
それはきっと、震災復興、明日の日本へとつながる。
それ全体が「KISS THE HEART #1」という大きな作品ではないだろうか。
そんな風に思えてきたのです。


このバスツアーの一番最初に後藤先生がおっしゃっていました。
「感じようとしない限り何も見えてこない。アートに正解はない。」
ここに記したのはワタシなりの解釈でワタシが感じたことです。
たぶん、他のひとが観たら違うように感じることもあると思います。
機会があれば、ぜひ、新宿・日本橋・銀座でアートを観てみてください。

 
※本記事は、トレンダーズの招待でプレスとして三越伊勢丹の
アートチャリティ企画に参加し、作成しました



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